『中川ともの芝居絵』赤井 達郎

『Tomo's play picture』by Tatsuro Akai


素描『女房ちよ』中川とも

1971年(昭和51年)

木炭・紙

『中川とも芝居絵集』(桂書院)より

素描『戻橋』中川とも

1971年(昭和51年)

木炭・紙

『中川とも芝居絵集』(桂書院)より


 

 

大きな展覧会にゆくと はなやかな衣裳の 文楽の人形にであうことがある

 

それはテーブルの上の静物と同じように 美しく描かれてはいるが

そこから太棹のひびきを聞くことはない

 

 中川ともの芝居絵は

日高川の清姫にしても 絵本太功記の十次郎にしても

ダーク系の衣裳で線もふるえているようであり、美しく描けていない

がそこからは暗い芝居小屋のなかで聞く

あのベンベンという太棹の音が聞こえてくるようである

 

 中川ともはテレビで見た大芝居にヒントを得て描くこともあったが

"しろうと芝居"地狂言があると必ずでかけ

大きな目で舞台をにらみつけるようにしてスケッチしていた

 

 もちろんその絵は舞台で演じられた姿を描くものであるが

なかには舞台に登場することのない人物をいれ

まったく独自の舞台(画面)を構成するものもある

 

中川ともは地元の文楽にまねかれて太夫をつとめることもあり

その絵も地狂言のなかまとともに作り上げたものといえよう

 

少しながくなるが 中川ともがおりにふれて書きつけていたノートの一節をひいておこう

 

 いつも歌舞伎を見ると やり切れない様な気持になって仕舞ふ

 

それでついつい スケッチブックを持って行って

出来るだけ描き留めて来る様になって仕舞った

 

何故 斯う砂切の太棹を聞くだけで

そして背筋へびりびり感電した様になるのだらう

 

析の音

下座の

アノ

その時々のオーケストラ的の

いはゆるおはやしなども胸に沁みる思ひがして来る

 

そして

目に映ずる役者の容貌

肢体から受ける感じ

 ある型

 フォルムを通して演じられる

 殊にクライマックスに到った時の見得の如き

自分の体全体で それを受止める様な感動にかられて仕舞ふ

『仮名手本忠臣蔵 道行旅路嫁入り』中川とも

1966年頃(昭和46年)

ポスターカラー・紙

『中川とも:天衣無縫の絵師』(岐阜県美術振興会)より

筆者紹介

赤井 達郎(あかい たつろう)

 1927年 中津川市に生まれる

 1958年 立命館大学大学院 修士課程を修了

 大阪工業高等専門学校教授

 奈良教育大学教授を経て学長 同名誉教授

 ・主な著書

  『中川とも芝居絵集』(1972年 編著 桂書院)

            『江戸時代図誌』中山道Ⅱ(1076年 編著 筑摩書房)

           『謎解きの系譜』(1989年 教育社)

           『京都の美術史』(1989年 思文閣出版 毎日出版文化賞受賞)