あらすじ

 

 

阿波徳島の藩主 玉木家の若殿は、吉原の傾城 高尾太夫に溺れていたが、これに乗じて横領を企てた悪家老 小野田郡兵衛は、野望を遂げるのに邪魔な存在である家老 桜井主膳を退ける為に、主膳が預かっている主家の重宝「国次(くにつぐ)の名刀」をひそかに盗み出して、首尾よく主膳を退けてしまった。

 

ここに主膳の旧臣で、十郎兵衛、お弓と云う夫婦がいるが、現在は主人の刀を詮議(捜査)する為、心にもなく盗賊の群に入り、十郎兵衛は銀十郎、女房お弓はお徳と名を変えて、大阪玉造のほとりに住んでいた。

 

或日のこと、銀十郎の女房お徳は、どんどろ大師の命日に参詣した時、その門前で憐れな巡礼歌を唄いながら来る、いたいけな小娘と出合った。故郷に同じ年頃の娘を残して来たお徳は、自然とこの娘に心を引かれた。

お徳は幾らかの報捨をした後、どうしたわけの一人旅かと訊ねると、その娘の口から洩らされたのは「国は阿波の徳島で、父様の名は十郎兵衛、また母様の名はお弓、その父母に逢いたさ故に、わし一人西国するのでございます。」という。この言葉に、お徳を名乗っているお弓の胸はつぶれる思い、このいじらしい巡礼こそわが生みの子おつるなのであった。

 

お弓は可愛さ懐かしさに力一杯抱きしめたいのだが、今はお徳と名を変えて世を狭く生きる身で、悲しい死をさえ覚悟の身である。なまじ名乗って憂目を見せるよりはと、じっと堪え忍んで我が身の憐れをよそ事に、泌々と云い聞かせたり、諭したりするのであった。