【世話物】嫁いびりに耐えかね心中に走る悲しい結末

大坂の新靱にある八百屋の主人、仁右衛門は、半兵衛という武家の次男坊を養子とし、千代という嫁を取らせた。仁右衛門が亡くなると後妻のくまが家を仕切るようになるが、くまはねじ曲がった気性で、千代を何度も追い出そうとする。

四月五日の庚申待ちの宵、追い出された千代を町役の太郎兵衛が復縁できるようにと千代を連れて帰ってくるところから幕が開く。 くまは、愛想良く千代を迎えるが、実は、半兵衛の口から離縁を言わせようと企んでいた。半兵衛の兄十蔵が訪ねて来て、離縁せぬよう半兵衛に誓わせるが、くまにそそのかされて離縁を言い渡してしまう。

千代を箒で叩き出そうとするくまを止めたのは、甥の嘉十だった。物乞いだったくまに、死んだ仁右衛門が情けを掛けて連れて来たこと、その恩を忘れ、半兵衛夫妻の邪魔をしていることを暴露する。くまはふてくされ、下着姿で追い出されたと大声で物乞いをする始末。十蔵は内情を知り、千代を預かって帰っていく。しかし半兵衛は、自害を決意する。そこへ千代が戻ってきて、共に死のうと二人で手を取り、心中へと向かう。

主な登場人物

八百屋半兵衛(やおやの はんべえ)

仁右衛門の養子。苦難に耐える色男。二枚目 辛抱立役。

千代(ちよ)

半兵衛の妻。姑のイジメにじっと耐えている、世話女房

くま

仁右衛門の後妻。半兵衛の養母。意地悪婆さん。

仁右衛門(じんえもん)

 八百屋の主人。半兵衛の養父。既に他界。

 

●太郎兵衛(たろうべえ)
 町役。物事のよく分かる町内会長のおじいさん。

 

●嘉十(かじゅう)
 仁右衛門の甥。粋でやくざな、曲がったことの嫌いなあんちゃん。

 

●十蔵(じゅうぞう)
 半兵衛の兄。分別のあるお侍。

 

●三太(さんた)
 八百屋の丁稚。正直で働き者だが、ちょっと足らない子。

解説

作者不明。近松門左衛門の『心中宵庚申(しんじゅうよいごうしん)』、紀海音(きのかいおん)『心中二腹帯(しんじゅうふたつはらおび)』を基にして、『増補八百屋献立』という演目ができあがった。それを、地回り役者が現代の東濃に伝わっている形で演るようになった。

心中物が流行ることによって、実際に心中が社会現象になってしまい、幕府によって禁止の御触れが出されるまでの騒動となった。心中を禁止するための理由が、「『忠』の字を二つに切るなぞけしからん!」という、上手いこと幕府らしく言ったものだったらしい。